Enikki  「豚に真珠」  01/05/25

 

 

皆さんは「豚に真珠」って「諺」をご存じですよね。

では、『豚に真珠』と言う「お話」を知っていますか

たしか・・・昔むかしあるところに豚がいました。って始まるお話なんですけれどね。

  「僕はここだよ、 ここにいるよ。」 あら、誰か呼んでる・・・・

五月の爽やかな風が リビングのカーテンをゆらして

さーっと通り抜けたかと思うと、又聞こえました。

「僕はここだよ、 ここにいるよ」


 

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「あら  豚さん?  こんな所で何をしているの?」
  
今は何もしていないさ

昔むかしあるところで 僕は見張り番をしていたさ。

あるところと言うのは実はトイレでね。

トイレの棚のトイレットペーパーの横に座って、

トイレットぺーパーの見張り番をしていたんだよ。

ずーっと ずーっと 出世がしたいものだと、

それだけを思い続けてね。

・・・僕にはもっと似合いの場所がある筈だって、

ずーっと ずーっと

そのことだけを 思い続けていたのさ」


「なーるほど、それでどうしました 出世が出来ましたか。」

「それが・・・ ある日僕は運悪く トイレの棚から落っこちてしまってね。

足が壊れてしまったのさ。」




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    「なーるほど、 何ともお気の毒に・・・」

    「僕だって、これで万事休す、全て終わったと思ったさ!

    ご主人がゴミ箱を眺めながら、もう一度僕を見て言ったのさ。

    『いいかもしれない・・・』 ってね。

    ・・・何がいいのか 分からないまま、

    僕はトイレから 今度は冷たい土の上に置き去りにされたのさ。

    あー! 『いいかもしれない・・・』って事は・・・・

    もういいって事か   これが死ぬって事か・・・

    今更のように、トイレで過ごした日々が懐かしく思いだされたさ・・・・。」

    「  なるほど  それはそれは・・・  」




 
「 ところが、どれくらいたったのか・・・ ふと目を開けてみると

    そこには今まで僕の見たこともない世界があったんだ。

なんて事だろう!

    僕にはまだまだ知らないことがいっぱいあったのさ!



陽が落ちるとね

空には可愛い星達が輝き  丸い大きなお月様が微笑み


夜風は顔にひんやりと なんと気持ちいいことか。


朝になれば露のしずくのシャワーが降り

小さな生き物が珍しそうに そそくさとあいさつしていく・・・

大きな木の梢はザワザワと話かけ

色んな草達が毎日新しい顔をのぞかせる

色とりどりの花が香り 地面は時に温かく 時に冷たく

その日その日の太陽の気ままなご挨拶に 僕は『 おはよう ありがとう 』と・・・・


ね! 分かるかい・・・・  」




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豚さんは、本当に幸せそうに静かに言いました。

「・・・真珠を夢見ていた僕は真珠しか見えていなかった。

いつかきっと トイレから出て 玄関か リビングに行こう!

そこにはきっと真珠がある・・・・僕に一番似合う真珠がある。」

「でも君は・・・・その真珠を手に入れられなかった。」

「そうさ その通りさ! そのかわり僕は

明日のお日様に 又出会える事が楽しみで、

毎日ワクワクしてる そんな僕をみつける事ができたのさ!

ね、すごいだろ!

そりゃあ ここはとても厳しい世界だけれど、

みんな生き生きしている!キラキラしている!


だから僕はもう、やきもきもしなければ、くよくよもしないし


愚痴る事も、ののしる事もないさ!」



 
A0515buta7.jpg (27724 バイト) 「そんなに体が不自由になってもかい?

色あせて行く事も承知でかい?」


「そうさ、ここに来て 初めて出会ったこの世界を、

素直になれた今の心を、大切にしようと思ってるよ。

そう思うだけで、

不思議に僕はいい顔になれるのさ!

心から幸せだって思えるのさ!」

「なーるほど・・・ なーるほどそうかい・・・ 

豚さんは、もう真珠がなくても幸せなんだね・・・。」


「幸せってね 自分の心の中にあったんだ。

何処にいても どんな暮らしをしていても

感動する心を持たないと
 幸せとは言えないんだ!

今の僕は 毎日感動でいっぱいなんだ。

 昔の僕は狭いトイレの中で、

真珠のことしか考えていなかった。
だから

たとえ僕が真珠を自分のものに出来たとしても・・・・・ 

本物の感動では なかったろうね・・・

本物の幸せでも なかったろうね・・・・」


 

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「その夜から 君は 変わったんだね。」

「そうさ・・・ ご主人が置いてくれたこの世界を うんと楽しんでいるさ!

ホラ! 足にお花を挿す事だってできるだろ・・・



僕が見つけたものは・・・・

もしかしたらダイヤモンドかもしれないよ!」

「ほー  なるほどダイヤモンドかもしれない・・・・」


「わかったかい? これが、豚に真珠のお話さ。」









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おだやかな5月の風は

大きなダイヤモンドの輝きを残して

何事もなかったかのように通りすぎて行きました




おしまい



   

たまたま落っことしてしまった置物の豚さんを、庭に出した事で、思いがけず豚さんは語りはじめました。一気にできてしまったおはなしです。
実は結婚したばかりの息子が、4ヶ月後の3月、突然東京に仕事を転職しました。嫁は一生の仕事と思っていた職を捨てて、慣れない関東での寂しい生活。帰りたい帰りたいと・・毎日悩んでいました。私もどうしてやることもできず、只聞き役でいました。私の心の中の祈るような思いが、こんな形になったのかもしれません。書いたのは2年前の5月ですが、今は子供もでき、気の合うお友達もでき、相変わらず帰りたい帰りたいは続いていますが、元気で暮らしています。

                                                  ときちょ