Enikki   ものがたり舎(や)  01/06/16

先日私は一通の手紙をどことなく見覚えのある差出人から受け取った。
最近手紙を受け取る事などめっきり少なくなった私の目に、丁寧な美しい字は眩しかった。
一見して雰囲気のあるその書面から、
確実に素敵なものを受け取ったという嬉しい気持ちになった。

目を通して見ると、
去年、ミニコミ誌の記事を見て飛び込みで伺った「ものがたり舎」の2回目の公演案内だった。
差出人の彼女はその時の出演者の一人だった。
見ず知らずの私に、ありがたいお誘いだ。
丁度何とかなりそうな時間帯だったので即伺うことに決めた。
友人を誘って3人、車で出掛ける事になり車に乗らない私としては大いに助かった。

2号線は思いの外混んでいた。
ギリギリ間にあったかと、急いでジャスコ岩端店の北駐車場に入ろうとすると駐車場入り口に案内があった。



   



そう言えば去年の会場は随分わかりにくかった。大層苦労して諦めかけた時
この案内を見つけたあの切ない夕暮れが鮮烈に甦った。
あの時、私達は・・・・もう諦めたのに

親切過ぎる程のタクシーの運転手さんに巡り会えたお陰だった。
そして今日又ここにこれた事、全ての御縁に改めて感謝したい。


日時  2001年 6月 16日 14時〜
会場  はりま環境図書館(岩端ジャスコ前 松本書店の奥)

地図を頼りに見回すと想像とは違うイメージで目的の図書館はみつかった。










玄関は右手に見るだけにして急いで図書館に入った。
普通の民家だった。わびさびを醸し出した落ち着きのある会場だ。
どうやら私設図書館であるらしい。

会場は広縁が舞台に設えられた八畳和室という
全くの息を潜めあう空間だった。

これはいい。 全く良い。
去年の会場もそうだったが朗読劇の味わいを十分堪能できる。
親切で、計算し尽くされた憎らしいほどの演出だった。

舞台正面には椅子が4脚置いてあった。





                     プログラム

                (ものがたり舎)  こころみの会 その弐


        *プロローグ  作/ 内田百間 「餓鬼道肴そ目録」    大西智子
       *朗読劇    作/ 東野圭吾 「手作りマダム」
                                    石橋照美
                                    糸田早苗
                                    鳥居やす江
                                    高見あゆみ
                                    大西智子

           ー 休憩 ー

       *朗読     作/ 宮部みゆき 「紙吹雪」       高見あゆみ

「手作りマダム」が始まってしばらくしてからの事。どうも気になることが頭をかすめる。
この人・・・もしかしたら私の知っている人かもしれない・・・・
いや、違う・・・・。

どこでだったか・・・・いや違う、彼女がまさか・・・・

ホラやっぱり違うよ・・・全然!
他人のそら似ってあるもんだ・・・。


しかしやっぱり気になる・・・・。

私のかすかな記憶をたどれば、その彼女は確か・・・・  細井・・・?   細田・・・? 
名前を覚えるのがひどく苦手な私には、思い出す事はもっと困難な事かもしれない。

私はそっとプログラムを覗いて、去年の出演者三名以外の二人の下の名前に目をやった。
性は、変わっている可能性は大きいと思ったからだ。

やす江、早苗・・・・・

鳥居やす江、糸田早苗・・・・

細田・・・・いや、糸田   糸田早苗

そうだ
糸田早苗だ!!

やっぱりそうだった。


信じられないような事実が目の前にあった。
何年ぶりかを書くのは、はばかられるが高校卒業以来ウン十年ぶりだった。

彼女の印象は兎に角大人しい静かないつも下を向いて楚々とした
おまけに声の小さな女性だったと記憶している。

それがこのマダム役がはまり役とも思えるしたたかさである。
参った参った。
人とはこんなにも分からないものなのか。潜在的に持っていたものが発掘されたのか。

後で彼女に聞いてみると高校の頃から好きだったそうで
プロデユースF(姫路のアマチュア劇団)の初期のメンバーだったそうだ。


私の内なるクライマックスが過ぎると
「手作りマダム」もいよいよその時が来ていた。

面白い。お話にぐいぐい引きつけられ
「マダムが少し長く席を外す・・・」のくだりで、私はもしやと頭に思い描いたその光景に
期待を裏切らずドンドン迫っていった。

分かっていながら其処に迫る描写と演技が旨い!面白い!
たたみかけ、今か今かと引き付けられて、引っ張られ
我を忘れ、とうとう洗濯機の泡の中に放り込まれた。

最後のシーンだった。
拍手!拍手!

なんと、思いがけずブラボーおじさんがこんなところにも来ていた。声がかかる。

「すーっばらし〜!!」




兎に角全て面白かった。

写真は撮れない覚悟で持参したが、
最後のごあいさつだけとらせて頂いた。
了解を得て、ここに ご紹介する事が出来た。










                                     


お分かりと思うが同級生の彼女はやはり演技が終わると下ばかり向いていた。



玄関横で帰りに見つけたのだが、老いて未だ朽ちず。
良くご覧頂きたい。中が全く丸く抜け落ちている。
それでいて青々と元気な老木。

老体になっても、はばかられることもなく、存在に感動を与えられる。
私達もそんな老い方をしたいものだ。

お若い出演者もおられたが、私達の歳で何かに挑戦する、それも舞台ともなれば、
彼女のような生き方は、正に観る人に聞く人に元気を与える
素敵な生き方だと言えるだろう。



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