bubutty33
Enikki 「豚に真珠」 01/05/25
まずは、お話の世界をじっくりお楽しみ下さい
bubutty33 |
まずは、お話の世界をじっくりお楽しみ下さい
|
ある日の事でした。
丸いパンと四角いパンが話しをしています。
丸いパンが言いました。「豚に真珠って諺があるよね。」
「ああ！ 知ってるとも！」四角いパンが言いました。
「ところで・・・『豚に真珠』と言うお話を知ってるかい。」
この日初めて出会った二人でしたが、
大きさといい、焼き加減といい、香りといい・・・・
すっかり意気投合したのか・・・
丸いパンが言いました。
「確か・・・昔あるところに豚がいました、って始まるお話なんだけれどね〜。」
「ホー なーるほど・・・。」
五月の爽やかな風が
す〜っと部屋を通りぬけました。
「僕はここだよ。ここにいるよ。」
「エー！ 誰だい？ どこにいるの？」四角いパンは言いました。
|
|
「アー 豚さん！そんなところで何をしているの？」
「今は何もしていないけどね 昔、僕はトイレの棚のトイレットペーパーの横で、ぺーパーの番をしていたんだよ。 トイレを出て早く出世がしたいものだと、それだけを思い続けてね。 僕にはもっと似合いの場所がある筈だって。」 |
「なーるほど、それでどうしました。出世が出来ましたか。」
「それが・・・ ある日僕はトイレの棚から落っこちてしまってね。足が壊れてしまったのさ。」
「なーるほど、 何ともお気の毒に・・・」
「僕だって、これで万事休す全て終わったと思ったさ！
ご主人がゴミ箱を眺めながら、もう一度僕を見て言ったのさ。
『似合うかもしれない・・・』 ってね。
何がなんだか分からないまま、僕はトイレから冷たい土の上に置き去りにされたのさ。
あー！ これが死ぬって事なのか・・・
今更のように、トイレで過ごした日々が懐かしく思いだされたさ・・・・。」
「 ・・・・・・・ 」
「どれくらい経ったのか・・・ ふと目を開けてみると・・・
そこは今まで僕の見たこともない世界だったんだ。
なんて事だろう！
僕にはまだまだ知らないことが一杯あったのさ！
空に輝く星達 丸い大きなお月様
夜風は顔にひんやりと気持ちよく
朝になれば露のしずくのシャワーを浴び
小さな生き物が珍しそうにあいさつしていく・・・
草の匂いや花の香り 土の匂いにお日様の匂まで・・・・
ね！ 分かるだろう・・・・
豚さんは、本当に幸せそうに言いました。
「・・・真珠を夢見ていた僕は真珠しか知らなかった。
いつかきっとトイレから出て玄関かリビングに行こう！
そこにはきっと真珠がある・・・・僕に一番似合う真珠がある。」
「でも君は・・・・真珠よりもっといいものを見つけたって訳かい？」
「そうさ その通りさ！
明日のお日様に又出会える事が楽しみで
毎日ワクワクしてる
そんな僕をみつけたのさ！
すごいだろ！
厳しい世界だけどみんな生き生きしている！
キラキラしている！
僕はもう、やきもきもしなければ、くよくよもしないし
愚痴る事も、ののしる事もないさ！」
「そんなに体が不自由になっても・・・・かい？ 色あせて行く事も承知で・・・かい？」
「そうさ、ここに来て初めて出会った世界を、素直になれた心を事を大切にしようと思ってるよ。
そう思うだけで、ワクワクするのさ、不思議に僕はいい顔になれるのさ！ 心から幸せだって思えるのさ！」
「なーるほど・・・ なーるほどそうかい・・・ 豚さんは、もう真珠がなくても幸せなんだね・・・。」
「幸せって自分の心の中にあったんだ。何処にいてもどんな暮らしをしていても感動する心を持たないと
幸せとは言えないんだ！ 僕は狭いトイレの中で、真珠のことしか考えていなかった。
たとえ僕が真珠を自分のものに出来たとしても・・・・・ それで幸せだったかどうか・・・・」
「あの夜から君は変わったんだね。」
「そうさ・・・ ご主人が、置いてくれた世界をうんと楽しむさ！
ホラ！ 足にお花を挿す事だって・・・
僕が見つけたものは・・・・・
もしかしたらダイヤモンドかもしれないよ！」
「なーるほど・・・・」
おだやかな昼下がり
５月の風は
何事もなかったかのように通りすぎて行きました
この日の丸いパンは、ファーマーがヨーデルの森で買ってきたパン。
四角いパンは、たまたまその日、ときちょさんがいつもより張り切って作ったパンでした。
水は使わず牛乳とバターと卵それに全粒粉と、特筆すべきはそば粉まで混ぜて作った
初挑戦の食パンと、その丸いパンが出会ったときは・・・火花が散っているようでした。
でも流石良くこねられたパン達です。
何となくけん制しあっていましたが、この後
四角いパンは、遠くから来た丸いパンに素直に敬意を表して
自分は快く冷凍庫に入ることにしたそうです。
めでたしめでたし。
ブブの部屋へ
